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ダイビングコンピューターには真似できない芸当とは?

ダイバーズウォッチを語る上で、数十年前にダイビングコンピューターが主流になって以来、機械式時計が不要になったというのが、ある種の決まり文句になっている。時計愛好家が機械式時計を使うのは単に楽しいから、レトロチックだから、20世紀を象徴する道具が好きだから、などなど。我々は機械式時計でダイビングをすることが、ただの道楽であることを公然と認めているようなものだ。

しかし、ダイビングコンピューターは、FXDが得意とする、ダイバーが夜間に行う隠密作戦のようにコンパスで次々と泳ぐタイミングを計るということには向いていない。だから、FXDは決して贅沢品ではない。FXDはデジタルウォッチを凌駕さえする、希有な機械式時計なのだ。

標準的なダイバーズウォッチのベゼルは、空気の消費量を計算できるようにカウントアップし、誤って時間が追加されるのを防ぐために反時計回りにしか回転しない。チューダー ペラゴスの通常モデルもその仕様を踏襲している。

しかし、標準的なペラゴスと異なり、FXDは両方向に回転できるカウントダウンベゼルを採用している。さらに、ベゼルのローレット加工をケースの外側にまで広げ、グリップ性を高めている。このような工夫により、ミッション中、潜水区間毎に何度もベゼルをセット・リセットするような使い方に最適なモデルとなっている。分針に希望の時間間隔を合わせ、分針がベゼルのピップを指すまでコンパスの針路に従い、次に新たな時間間隔をベゼルにセットして次のコンパスの針路を追うような使い方である。

逆回転防止ベゼルを調整したことがある人なら、目盛りを合わせるためにベゼルを再び回転させることがどんなに面倒なことかわかるだろう。朝、卵を食べるタイミングを計る程度なら問題ないが、生死を分ける可能性のある戦闘状況では深刻な問題になりかねない。パイロットウォッチに両方向回転ベゼルが採用されているのは、そのためだ。これらは任務の最中にすばやく設定する必要があるナビゲーションツールであり、しばしば手袋をはめたまま、方向感覚を失うような環境下で使用されるからである。

逆回転防止ベゼルはミッションのナビゲートには理想的ではないが、ほとんどのダイビングコンピューターはさらに使い勝手が悪い。一般的に、ダイビングコンピューターにはカウントアップするストップウォッチが搭載されており、ダイバーは泳ぐたびにその長さを覚えておかなければならない。戦闘時に短期記憶や外部からの指示リストを追加で使用することは軍事的な機能設計上、許されないことだ。


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